アフリカの民族衣装展
アフリカの民族衣装展
インドネシア縞と格子の衣装展
先回にひき続き縞と格子の衣装展をインドネシアコレクションから企画いたしました。インドネシアの島々には技法や素材が異なる多彩で多様な染織品が伝わっていて長く追いかけてきました。幸運な出会いのなかで手に入れた衣装の多くが縞をベースに絣、刺繍、織り、染めなどで独自の染織品へと発展させていて感動的です。それらはどのような交流や交易を経て作られてきたのものかと興味は尽きません。それではご来場をお待ちしております。
2026年9月15日よりネットギャラリーにて公開
トババタク族の儀式の布「ウロス」には贈られた人の幸福への祈りが込められ、高位から低位の人へ贈られる伝統が受け継がれている。すなわち両親から子供へ、祖父母から孫へ、支配者から被支配者へ、娘を嫁がせる家族から嫁を取る家族へと贈られる。
トババタク人は生涯少なくとも三つのウロスを受け取る。すなわち誕生の時にはウロス・パロンパ(抱え布)を、結婚式でウロス・ヘラ(婚礼の布)を、死に際してはウロス・サプット(包み布)を受け取る。加えて女性は最初の妊娠の時にブロス・ニ・トンディ(魂の布)を受け取る。
トババタク人が他の民族と混交している場合でも、彼らは伝統的衣装の一部としてウロスを身につけることで出自を明らかにする。その場合ウロスは腰布、肩掛、頭巾、そして毛布のように体をくるむ布として着用される。トババタック人は共同体に対して立派な役職を果たした人に尊敬を表すためにウロスボランボランを贈る。この織物は高価で最も価値の高いウロス・ラギドゥップやウロス・サドゥムに匹敵するが普通の布とみなされる。それとは対照的に儀式で送られるウロスアダットはその用法が厳密に規定されている。例えばウロス・ラギドゥップは男性の両親へその妻の両親からのみ贈られる。なぜなら娘を嫁がせる方が上の立場に立つからである。娘を嫁がせる家族は、嫁を取る家族を祝福する現世の力を持つレバタ・パタラ・グル神の役割を果たす。ウロスを贈ることは幸福で、健康で長命な人生と良き子孫を祝福する源となる。それは儀式の中で受け取り手の肩にかけられる。
「織り染め縫いの宇宙」クスマエイココレクション図録より
各地域の縞・格子衣装
スマトラ島 バタック族




50種類以上もあるウロスの中でも王侯や王女が着用するラギドゥップは最上位のものです。美しい縞模様が印象的な女王用ものはワープエクステンションとして知られる超絶技法で縞に連続する両端に織りが施されます。両端織文様の一方は女性的要素を表しもう一方が男性的要素を表します。肩掛けとして身につける時男性は「男性側」を前にたらし女性はその逆にします。 伝統的なウロスには特定の意味を持つモチーフが使われます。例えばウロス・シホタン(籐)は籐のように見える長い線による縞と、その間の破線によって装飾され、ものを強く結びつける籐のようにふたりが強く結ばれ合うようにと、結婚式の間に贈られ式に欠くことができない布です。4枚目の写真はインドネシア大使館で開催されたバタック族紹介行事でウロス・シホタンに巻かれた新郎新婦の様子です。5枚目は百年以上前に織られて使われたものです。
スマトラ島ランプン




これはスマトラ島南部のランプンのタピスと呼ばれる筒形の腰衣です。縞にそって金糸で刺繍された十字形は方位磁石のモチィーフです。同様のものがクスマコレクションにあり「19世紀の半ば頃に製作されたこの衣装は儀式の衣装とともにランプン中部のパビアン人の最高階級の貴族の女性が身につけたのであろう。タピスは元来頑丈な木綿でできた単なる経縞の布で、刺繍がない場合はランプンの海岸部の女性の日常着であったと考えられるが今日では簡素な縞のタピスは着用されない。」と解説されています。
本品は図説のものにくらべ雲母片や刺繍糸の剥落が多くあり、往事はどれほどに煌びやかなものだったかと想像しています。また方位磁石と磁石の間に馬のモティーフが 刺繍されていたのかもしれないと目を凝らし楽しんでいます。
ジャワ島 クルック地方




ジャワ島東部のクルック地方の点描更紗を手に入れたのは2010年のこと、ジャワ更紗の概念を一気に拡げてくれる布との出会いでした。よく知られた鳥や花模様を絵を描くように布に描き出すジャワ更紗に対して、細かい点で三角や四角の形を作り、その点描の図形を無数に並べた素朴なこのような更紗布に懐かしさを感じました。聞けば「この地で育てた手紡ぎの木綿糸で藍の細かな格子柄に布を織ります。この格子布は一つ一つの点を蝋置き道具(チャンティン)で正確に蝋を置くためのグラフ用紙の役割を果たします。」とのことでした。気の遠くなるような作業を経て生まれた衣装であることをこの地域に撮影に入ったNHKの取材班の記録から知りました。
カリマンタン島 ダヤック族




プヌアク・ダヤク人はカリマン島東部のマハカム河を遡った内陸部のタンジュン・イスイを中心として居住している。彼らのもとでは今も女性用の腰布や男女の上衣などの伝統的な儀礼用衣装あるいは儀礼用装飾布などが「ルシ」の名で総称される経絣によって作られている。それらはプヌアク・ダヤクの伝統的な繊維素材であるドヨ(キンバイザサ)を今なお使用しているもののその染色には一般に合成染料が用いられている。機織りにはA型腰バタが使われている。伝統的な模様の多くは鉤、菱形、三角などを基本形としており幾何学的な模様を構成しているが、それらの模様の多くには祖霊やワニやトカゲなどといった具体的なモチーフがありアニミスティックな信仰と密接に結びついている。なおこうした模様にはイバン・ダヤク人、トラジャ人、アトニ人などをはじめとする多くの民族のもとで作られてきた経絣の模様とのあいだに多くの共通性が見いだされる。
「イカット 絣に見るインドネシアの色とかたち」岡田コレクションより
バリ島 シガラジャ




バリ島北部の都、シガラジャで入手の赤と白の男性用ソンケット(112×184cm)は金属糸による縫取り文様や両端の金糸の繊細な縫取り織りが美しく豪華なものです。赤と白のソンケットは創造主であるプラフマー神に捧げる儀式でカースト身分の高い男性がアウタースカート(saput songket)として使用されたものと推察しています。
他方、白と黒の市松格子の布は「カンべン・ポレン」と呼ばれ霊力を持つ魔よけの布です。 白と黒は天と地、善神と悪神、太陽と月、男と女など世界は両極から成り立つというバリ人の二元的世界観をあらわすとのことです。寺院の入り口 の両側に立つ像にも、サプット・ポレンが巻かれ、魔物が入ってこないように寺院を守るシンボルとしてバリ島ではよく見かけました。


