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 今月はインドネシアのコレクションからスマトラ島とジャワ島の赤い民族衣装を展示しました。太陽の赤、火の赤、血液の赤、甘い実の赤・・・人類にとって赤はまさに生命の色とも呼べる特別の色です。世界の各地で結婚やお祭りなどの特別の日の晴れ着として赤い衣装は長い間珍重されてきました。8年前の「世界の赤い衣装展」の時には手元の点数はまだそれほど多くありませんでしたが、この間に特にスマトラ島の赤い衣装をかなり蒐集することができました。部族によって異なる多様な赤の表情をお楽しみいただければ幸いです。2021年7月1日よりネットギャラリーにて公開いたします。

 スマトラ・ジャワ島の赤い衣装 

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 ジャワ島伝統の茜染はジラックと呼ばれる木灰族の明礬を含有する樹皮が媒染剤としてもちいられてきた。その染色法には茜染液(茜科のヤエヤマアオキ)にジェラックの樹皮を細かく叩きつぶしてオガ屑状にし、少量の水を加えたなかで布を押し洗いするようにして染める方法と粉末状にした樹皮や根皮に水を加えてペースト状にしたのち、それらを布の表・裏に摺り付けて染める方法があったと伝えられている。このような茜染めは18世紀初頭にスラバヤなどでおこなわれ、19世紀初頭からジャワ島の北岸一帯で流行した。しかし20世紀後半には茜染めはほとんどおこなわれておらず、ジャワ島東部のクルック地方で1970年頃まで前者の茜染めがおこわれていたことが知られているにすぎない。「ジャワ更紗―その多様な伝統の世界」(平凡社)より抜粋

 さて今月展示中のジャワ島クルック地方トゥバンの腰衣(サロン)、肩掛け(ゲンドンガン)の五点のうち三点は1970年以前に作られ実際に現地で着用されていたものです。一枚のサロンを仕上げる作業は綿花の栽培にはじまり、糸つむぎ、(藍染糸の格子縞布)手織り、点描の蝋おき、染液づくり、茜染め、さらに脱蝋までと驚くほどの手間隙をかけたものでした。しかし今はトゥバンでも工場で作られた量産品が着られ、このような手間隙をかけた衣装の作り手はいなくなってしまったようです。あとの二枚は都市のショップで売られていた復刻の新品でつむぎ糸の細さ、点描の細かさや染め色の色合い、大きさや長さも往事のものに比べてだいぶ大雑把で見劣りがします。売り物に昔のような手間隙のいる布づくりはおりあわないということでしょうか、伝統染織の継承の難しさを感じます。

 今回の展示品には100年以上も前に作られ、現地では既にその技術が失われたものが少なくないことを再確認しました。今後も大切に保管して見守っていきたいと思いを新たにしています。

伝統衣装の染織技法

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 ジャワ島クルック地方トゥバンの伝統サロン、手つむぎ綿、平織、点描ろうけつ染め、茜染はムンクドゥ(ヤエヤマアオキ)が使われています。

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 トゥバンの伝統的な点描更紗と同様に復刻制作されたサロンです。

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 カイン・ティガ・ヌグリ(三国の布)プカロガンでデザインと藍染、ラスムで赤染、ソロ(スラカルタ)で地模様をソガ染め、一枚の布が三ケ所を回って染められた贅沢なバティックです。

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 ラスムの赤染は「秘伝の赤」と言われ珍重されていました。このヴェールはスマトラ島のランプンで使用されたイスラム教徒のもので綿布に両面捺染され、100年以上の時を経た今も赤の染め色が美しく保たれています。

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 南スマトラ、ランプンの古い頭巾”クパラ” 絹糸を染め分けて中央部に緯絣でパトラ模様、その周囲は金糸や絹糸の多色刺繍が施され鮮やかな赤の地色は当時高価であった化学染料が使われているのではないかと思います。

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 南スマトラ、ランプンの頭巾”クパラ” パイナップルの繊維を染め分けて中央部には緯絣で幽玄なパトラ模様、その周囲は金糸の細かい刺繍が施されています。絹に比べてパイナップル繊維に染料が入りにくい様子がうかがえます。

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 北スマトラのアチェの古い絹経絣の女性用ヴェール バタック族の綿絣のウロスの模様に良く似たものがあるがこちらの糸は絹で白い縞の矢絣の部分が経年のため分解欠落して緯糸だけが残っています。

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 北スマトラのバタック族の綿経絣の肩掛け(あるいは頭巾) 非常に細い手つむぎ糸で織られている。繊細な絣模様に赤糸のたて縞が効果的に配置された技量の高い模様です。

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 スマトラ島コムリンの絹緯絣のヴェール、多色天然染料の絣模様と金糸の細かい浮き織が施されている。桃色系の穏やかな赤でずれなく絣紋様が染められた高い技量が求められる作品です。

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 同じくコムリンの絹緯絣のヴェール、多色天然染料の絣模様と金糸の細かい浮き織が施されている。こちらは格別に細かい絣模様が深く濃い赤で染められ見事です

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 南スマトラ州パレンバン、ムラユ人の絞り染肩掛け“プランギ(plangi=絞り及び虹の意)”絹地に巻き締め絞り、縫い締め絞り、手描き彩色がされたもの。20世紀半には製作の伝統が途絶え現存品は貴重です。

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ミナンカバウの女性用サロン、19世紀後期に遡る貴族の古い衣装、深く美しい赤色地に,驚くほど緻密な金糸紋様が織込まれ、裏地にはインドより舶来の更紗が使われた豪華なものです。

 

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